《MUMEI》

「いえ。ですが──‥」

 知らずとも、気配でそれとなく分かるのではないか、そう雛菊は思うのである。

 あの夜、出会った時のように、ばったり出くわすのではないか、とも。

「長い旅になるのか」

「‥はい」

「お前は未だ未熟だ。旅路で何が起こるか分からん。それでも──」

「あの男──草助が居ます」

「───────」

「必ずまた戻って来ます。──今より強くなって帰って来ます。それまで‥」

「ぁぁ、待つとしよう」

 菖蒲は月を見上げ、静かに呟いた。

 雛菊は安堵し、小さく息を吐いた。

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