《MUMEI》

「あの犬さ、たまに餌あげたら俺に懐いちゃって…、親にめちゃめちゃ頼んでやっと飼える事になったから、迎えに来たんだ」
「…そうだったんだ」

なんだ、なんだ…。


この男は犬じゃなかった。


つか、


当たり前だって!!!


「あいつ俺からしか餌食べなかったのになあ、君凄いね、
いや、羨ましい、
命かえりみず君をあいつは助けにいったんだから…」



「…グズッ…」


そうだ。
あの犬は私の代わりに犠牲になった。

私なんかの代わりに…

「大丈夫、きっと助かる」
「でも〜〜……………



…………ッ…」


え?



一瞬だけど、一瞬だけど今この男私の肩を抱いた?


横を見ると俯いたまま両手を握る男の姿。


ああ、気のせいか。


ガチャ…

「あ……」


「命は取り留めましたよ、野良君なのに君達有難う」


ニッコリと微笑む獣医さんの姿。


涙を滲ませて立ちすくしていると、今度は本当に、
本当に…


私の肩に男の手が触れてきた。


「よかった…


よかったね、
あいつに……好きだって言えるね」



「………あ……えっと………」




はあ……。

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