《MUMEI》
言霊(蒼視点)
何か、犬みてぇ…


手招きすると、櫻は嬉しそうに立ち上がった。


そのまま駆け出す…


と、思った。


少なくとも、俺はそう見えた。


「え…?」


そして、櫻も自分に


動かない


動けない自分に明らかに動揺していた。


「来い! 櫻!」


俺は、魂を込めて叫んだ。


俺のように力のある人間の言葉は


命令は、相手を従わせる力がある。


人はそれを、言霊(ことだま)と呼ぶ。


なのに


「蒼、様…」


涙ぐみながら櫻が訴えた。


「動きません…」


ーと。


やっぱりな


俺以上に、櫻を縛っている存在が、…いる。


「いい加減、姿を現せ!」

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