《MUMEI》

「…あの、」



おれは、さっそく話を切り出した。



「なんだ??」



優しく微笑む師匠。



「お―…、椎名くんのお父さんやお母さんとは、仲が良かったんですか??」


「…そうだよ。
オレと勇作―…ってのは、みつるの父ちゃんな―…は高校時代からの親友でな」



師匠は、そう言って眩しそうに目を細めた。



「…すみれさん―…みつるの母ちゃんは、オレたちの高校のマドンナだったよ」



師匠が言うには、おれのお袋は高校のマドンナ的存在で、
誰も寄せ付けようとしなかったらしい。


そんなお袋は、女子から嫌われ、いつも独りだったそうだ。


それでもお袋は、孤高のマドンナであり続けた。



―…そんなお袋の本当の心の傷に気付いたのは、おれの親父だった。


親父からの優しさを受け入れるようになったお袋は、

親父に、『あたしと結婚しなさい』といきなりプロポーズをしたらしい。



「あれには、オレも驚いたよ。
…実はな、オレもあの時マドンナに恋してたんだ」



そう言った師匠の笑顔を見て、おれは確信した。



―…師匠は、ずっとおれのお袋を好きだったんだ。



―…今、この瞬間も。



「…もう一つ、訊いていいですか」



おれは、師匠の目を見つめた。

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