《MUMEI》

「…椎名、くんのこと、どう思ってますか」



おれの問いかけに、師匠は優しく、
ほんとうに優しく、微笑んだ。












「…本当の息子のように、思ってるよ」








―…ああ、


『息子』って響きが、こんなにも嬉しいなんて思わなかった。



「―…って、何か厚かましいんだけどな!!」



そう言って照れくさそうに笑う師匠に、
おれは必死で訴えた。



「厚かましくなんかないです!!
…すっげえ、嬉しいです!!」



師匠が驚いたように目を見開いたので、



「いや、あの…椎名、くんもそう思ってると思って!!
―…し、みずさんのこと、ホントの父親みたいに思ってます!絶対、本当に!!」


慌てておれがそう言うと、

師匠は、いきなり顔を歪めた。



「…みつる、が、そう言ってたのか…??」



おれは何度も頷く。



すると、師匠は―…



師匠は、肩を震わせながら、



「…そうか…―…そうか…!!」



と、かすれた声で繰り返し呟いた。



涙が師匠の頬を伝ってるのが分かったから、

おれも泣きそうになった。




―…そうだ。




師匠は、いつだっておれの父親だった。


おれが悪いことすると叱ってくれて、
落ち込んだときには励ましてくれて。



師匠に、数え切れないほど素晴らしいものを貰った。



―…今度は、おれが返す番だ。



「…絶対、幸せになってください!!」



おれはそう言って立ち上がると、
深くお辞儀をして、道場を後にした。

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