《MUMEI》

「…おれさ、お前の母ちゃんに
『お世話になりました』つっちまった」



私達以外に誰も乗っていない車両。

ボックス席の向かいに座った椎名くんが、そう言って笑った。



「…私も、つい言っちゃったよ。
―…何言ってんの、って頭叩かれたけど」



―…まだ、元に戻れるって決まったわけじゃないのに、




妙な確信が、私達の間にはあった。



「…もし戻ったら
もう、蓬田の母ちゃんの料理食えねえんだな。
―…めちゃくちゃ美味かったぞ」


「椎名くんのケーキだって、相当美味しかったよ!!」



―…あのシフォンケーキは、本当に美味しかった。



「―…ゴジラにも会えなくなるな。
やっと懐いてくれたと思ったのによ」



少し残念そうな椎名くんに、笑いかける。



「ゴジラ、すごく人見知りだから。
特に、男の子には。
―…でも、助けてもらったとき、
あの子椎名くんに恋しちゃったみたい」



すると、椎名くんは驚いたように身体を起こした。



「―…は!?…恋って…あいつ、女!?」


「え??うん」


「―…うわー、オスだと思ってた」



椎名くんの驚いた様子に、苦笑してしまった。



椎名くんに恋してしまったゴジラは、
私のライバルってことだ。



―…ライバル、多すぎ…



頑張らなきゃ!!



そう決意したとき丁度、



『まもなく、守池駅に到着します…』



アナウンスが、鳴った。

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