《MUMEI》
桜花の話(63〜67)
それは、まだ


桜花が自我を持ち始めた頃の、話


ここは、異空間ではなく


ただの、桜の名所だった


桜山の丘に植えられた、一本の桜


その前は


いつの間にか、地元の名家


小早川家の


花見の指定席になっていた


『さぁ、今宵は無礼講だ』


当主の言葉に喜ぶ使用人達


それを見て微笑む当主の家族達


そして


当主が呼んだ、旅芸人達が次々に芸を披露していく



《楽しそうだな》


桜花はポツリと呟いた


その声は


誰の耳にも届いていなかった

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