《MUMEI》

「──‥?」

 慌てて飛び起きると、もう明け方。

 草助は黒鞘を手に荒ら家を出る。

「だいぶ寝ちまったなぁ‥」

 寝癖の付いたままの髪を気にも留めず、若人は歩き出す。

「──いねぇよなぁ‥」

 呟き、辺りを見回すが、人一人いない。

 いっその事、城の方へ戻ってみようか。

 だがそこで、彼は雛菊の言葉を思い出す。

『逃げたら、二度とここには近付くな』

 自分の身を案じての雛菊の策。

 もし城に戻ったなら、あの姫は自分を怒るだろう。

 そして、またいつかのように気まずくなってしまうだろう。

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