《MUMEI》

 斬られた傷は未だに塞がらない。

(まずい‥)

 逃げる事も出来なくはない。

 だが一方で、若人は逃げる事に躊躇している。

 もしこの場に、あの姫がいたなら。

 そうであったなら、逃げる事は出来ただろうが。

 だが今、それは出来ない。

 頭上に振り翳された刃。

 ──ざっ。

 刹那、二人の間に割って入った黒い影。

「! ‥お前‥」

 若人は目を見張る。

「済まぬ」

 姫は若人を振り返り、言った。

「──待たせたな、草助」

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