《MUMEI》
欲望
麻美は前を歩いた。後ろから刀を持った義六が付いてくる。
麻美は剣士だ。義六は油断しない。枝でも握れば負けてしまうかもしれない。
麻美は麻美で義六が三十人をなぎ倒したと思っている。そんな豪傑と素手で戦う気はなかった。
義六が夜空を見上げた。
「まずい」
「え?」麻美が振り向く。
「走れ!」
「え?」
麻美は意味もわからず走ったが、すぐにわかった。
ポツリポツリと来て、一気に大粒の雨が落ちて来た。
二人は必死に走った。山の天気は気まぐれだ。
「麻美、もうすぐ小屋が見えるはずだ!」
言った通り小屋が見えた。
「待て」
義六は先に中へ入り、安全を確かめてから麻美を入れた。
「助かったあ」
義六はいきなり着物を脱ぎ、全裸になったので、麻美は仕方なく目をそらした。
義六は濡れた着物を固く絞ると、ばたばたさせてから干した。
「麻美も脱げ」
「脱げるわけない」
「嫌らしい気持ちで言ってんじゃねえ。山で病気になったらそれは死を意味する。濡れた着物を着ているのは毒だ」
理屈はわかるが、義六も裸なのだ。小屋で二人きり。外は大雨。逃げ道はない。
「麻美」
「うるさい」
「うるさい?」義六が歩み寄る。「じゃあ仕方ねえ。少しおねんねしててもらおうかな」
麻美は慌てた。
「待て、来るな!」
義六が麻美の腕を掴み、おなかに一撃の構え。麻美は手で制した。
「わかった、言う通りにするから乱暴はやめて」
義六は笑った。
「かわいいな。よし、じゃあ脱いだもんこっちによこしな。俺が絞ってやる」
麻美は義六を睨んだ。
「山には詳しいんだろ。だから山を下りるまでは義六の言う通りにする。その代わり、私を辱めたりしないと約束してほしい」
義六は目を丸くして聞いていた。
「いやいや、そこまで下手に出られちゃあ、何もできねえ。俺は野蛮人じゃねんだから」
麻美は着物を脱いだ。
「あなたを武士と思って信用するんだから、裏切らないで」
義六は心底感激した。
「任せろ。姫君だと思って無事山から出してあげる」
麻美は着物を義六に渡すと、胸を両手で隠しながらござの上にすわり、膝で大切なところを隠した。
義六は麻美の着物も固く絞り、ばたばたさせてから干した。
麻美は今、一糸まとわぬ姿ですわっている。
彼女の官能的な姿態に、義六は興奮した。
「麻美。夜の山は危険だ。だから朝までこの小屋で寝よう」
麻美は緊張した。
「麻美、寒くないか?」
「別に」
「俺は寒い。こういう場合、体の熱で温め合うんだ」
麻美は生きた心地がしなかった。
「麻美、助けてくれ。俺は凍えそうだ」
麻美も寒かった。
「絶対に変な気を起こさないって誓える?」
「当たり前だ」
麻美は仕方なく立ち上がると、義六のそばに行った。
義六は荒々しく麻美を抱きしめると、押し倒した。
「何をする!」
「麻美、惚れた!」
「騙したな」
麻美は激しく抵抗したが、義六の力は強い。あっという間に組み伏せられてしまった。
両手を押さえ込まれ、身動きできない。
義六は自分の右脚を麻美の脚の間に入れ、膝で秘部を刺激する。
「何をするか!」
「麻美、諦めろ」
義六が舌と手で麻美の裸体をむさぼる。
「あ、やめろう!」
麻美の色っぽい声に義六の理性は飛んだ。
「麻美、諦めろ」
「約束を破る気か!」
「そうだ」
あっさり言われて麻美は怯んだ。
作戦変更しないと征服されてしまう。
「義六殿、待ってください!」
義六の攻撃が止まった。
「何だ麻美?」
「武人たるもの、城を陥落させても、敵国の姫君を辱めたりはしないのがならわし。欲望に任せて誇りを蹂躙するのは賊よ」
麻美は義六の目を真っすぐ見て言い放った。
「あなたは武士ですか賊ですか!」
「麻美を抱けるなら賊でもいい」
「え?」
通じていない。再び攻めを再開する義六。麻美は本気で焦った。
「待って、待ってください!」
麻美、危うし……。

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