《MUMEI》

「早くしろよ〜」


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


あれから颯ちゃんは、
俺の部屋に入ると、


「俺ん家来い!!」


なんて言い出した。


従っている俺もどうかと思うが……。


今、リュックサックへ荷物を詰め込んでいる。


「なあ、まだ〜?」


「待って!」


「全部持って行けば良いじゃん!」


「駄目だよ!」


そこであることに悩んでいた。


俺は目の前に置かれてある、
沢山の野球ボールと睨めっこしていたのだ。


「これ持って行けば?」


颯ちゃんがその中の一つを掴み上げる。


「駄目。
イチローはお留守番。」


「……はい?」


颯ちゃんは手にしたボールをまじまじと見つめた。


「ボールに名前付けてんの!?」


「う、うるさい!!」


俺は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。


「へぇ……。」


颯ちゃんはニヤリと怪しげな笑みを浮かべながら、
もう一つ掴み上げた。


「これは?」


「……ゴロウ。」


「じゃあ…これは?」


そう言って今度は指差した。


「ジュウイチロウ。」

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