《MUMEI》

街の中央に立つ巨木
その頂に上り街を眺めるのが(烏)は好きだった
もしかしたらソコに、と殺鷹は進む脚を速める
到着し、見上げた先にやはり彼の姿はあって
呼ぼうとし、だがどちらの名を呼べばいいのか迷った殺鷹は
取り敢えず呼ぶことはせず
土を蹴りつけ軽々飛び上がると梟の傍らへ
「何しに、来たんだよ?」
「別に、何も」
「なら、どっか行けよ」
まるで子供の様にそっぽを向いてしまう梟へ
殺鷹は困った風に苦笑を口元に浮かべるばかりだ
「梟」
「うるせぇな!構うなって言ってんだよ。大体、テメェ何モンだ!?」
殺鷹を睨めつけ唯喚くばかりの梟
段々と苛立ちが増していく様が、殺鷹にも見て取れる
「……私は、殺鷹。さっきも名乗ったろう?」
成るべく刺激する事のない様穏やかに
殺鷹の声は柔らかく梟へと語る事をする
少しでも落ち着いて話を聞いてくれれば、と
だが
「……知らねぇよ。テメェ誰だ?俺、一体誰なんだよ!?」
落ち着く所か益々混乱するばかりの梟
膝を立て縮こまって座ると、両の手で頭を抱え込んでしまう
「……梟、烏。俺って、何だよ?一体どっちなんだよ!?」
「落ち着きなさい、梟」
宥めてやるため背に触れてきた殺鷹の手を梟は振り払うと
殺鷹の銃を突然に奪い取る
一体何をするつもりかと、問うより先に
発砲音が一つ
目の前に朱の水滴が飛んで散り、そして激しい痛みが殺鷹を襲った
「……俺、どっちなんだ。梟?烏?……頭の中ぐちゃぐちゃだ」
銃口を殺鷹へと向けたまま
感情の引ききった顔で呻く様に呟く梟を、血に塗れた殺鷹の手が引き寄せた
「殺、鷹……」
「帰ろうか、梟。余り派手に動くと傷に障る」
額に掛る梟の長い前髪を指先で掬い上げてやり
梟の警戒心が緩んだ一瞬の隙を借り
首筋に手刀で意識を飛ばしてやった
落ちる梟の身体を受け止め肩へと担いで上げると地面を蹴りつける
ふわり高く飛んで上がり
街の喧騒を眼下に眺めながら、殺鷹は改めて家路へ
自宅へと帰りつけば
表戸の前にヒトの影が見えた
「案外早く見つけたね。凄いじゃない」
嘲りを含んだ賞賛を向けられ
その人影に、殺鷹は見覚えがあった
「君は、この間
の……」
「覚えててくれたんだ。」
「つい最近の事を忘れてしまうほど、私は年老いてはいないよ。それより」
何用かを問うてやれば、少年の口元が不敵に緩む
不愉快な表情でしかない顔、その表情の中に混じる殺気の様な感情に殺鷹は身を構えた
「……へぇ。僕が何をしに来たか気が付いたみたいだね」
「私としても君の様な幼い子供に手を挙げるのは本意じゃない。取り敢えず今日の処は退いてはもらえないか?」
「……嫌だよ。僕は梟を連れていく。白鷺はこいつの事要らないって言うけど、使い道はあるんだから」
言って終わりに、白の花弁が辺りに舞って遊ぶ
甘やかな花の香が漂った、次の瞬間
殺鷹の真横で、肉の裂ける様な音が
何事かと、そちらへと眼をやれば
梟の背の皮が、大量の血液を流しながら裂け始める
そのおびただしく流れる血液の中、耳障りな水音を立てながら梟の背からヒトの手が現れた
「……烏?」
段々とその全身を現す血塊
顔がはっきりと見え、見えたその顔に殺鷹は言葉を失ってしまう
「やっと、別々になった」
未だ水の音を立てながら、梟の身体から漸く分離した烏
落ちていくその身体を殺鷹は咄嗟に受け止めていた
血と体液に塗れ汚れきった身体
久方振りにみるその顔はひどくやつれてる様に見え
細すぎる肢体が何ともみすぼらしい
「……それ、あげるよ。その代り、梟は(白花の鳥)として貰って行くから」
同じように土に落ちた梟の身体を
およそ子供の力とは思えないソレで抱え上げると、少年は花に塗れ姿を消していった
舞う白花が全て地に落ちるのを殺鷹は見届けると
とにかく今は家に戻るのが優先だ、と
烏を横抱きに抱え、帰宅の途へ着いたのだった……

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