《MUMEI》
愛は会社を救う(7)
コピー室を覗くと、社内回覧用の新聞記事を複写している一人の女子社員がいた。
バレッタで留められた清潔感のある黒髪。グレイのベストがはち切れんばかりの、ふくよかな後ろ姿。だが、脚が長く腰の位置が高い体型は、地味な制服の上からさえ、ある種の優雅さを醸し出していた。
「あの」
背後から不意に声を掛けられ、少し驚いた様子でこちらを振り返る。
「あ、はい」
私の姿を見て、一瞬、人懐こそうな微笑を見せる。揃えた前髪の隙間から覗く黒目がちな瞳と、少し太めに手入れされた眉が、南欧辺りの田舎娘のようにあどけない。初めて言葉を交わす私に緊張しているのか、色白の頬がピンク色に染まっているのもまた、愛らしい。
藍沢由香里。地元採用で入社3年目の21才。総務グループ所属の、支店で最も若い正社員だ。

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