《MUMEI》 眩しさに閉じていた目を、恐る恐る開く。 池の向こう側には―… 『椎名くん』が、立っていた。 「…椎名くん!!」 大きな声で、名前を呼ぶ。 椎名くんは、伏せていた目を上げ、私を見つめた。 「―…おう、蓬田」 椎名くんの、声だ。 椎名くんの笑顔だ。 椎名くんが、目の前にいる。 私は、堪らず駆け出した。 椎名くんに、触れたい。 ―…確かめたい、ちゃんと。 「椎名くん…!!」 私は、無我夢中で椎名くんに飛びついた。 「う、わっ」 しっかりと抱きとめてくれる、本物の椎名くん。 「―…よかったあ…!!本物の椎名くんだ…! 戻れた、やっと―…」 「おう。…戻ったんだな、おれたち」 椎名くんの声が、降ってくる。 『―…お前達、一つ、聞くことがある』 太い声に、私は慌てて椎名くんから離れた。 …なんてことしてんの、私〜…!! 「…なんすか??」 椎名くんが、空に向かって聞き返す。 『―…記憶、のことだ』 前へ |次へ |
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