《MUMEI》
記憶 〈おれ〉
名前を呼ばれて、視線を上げる。

おれの目に蓬田が映ったとき、
自然に笑みが零れた。



嬉しかった。



目の前に、本物の蓬田がいることが。




「椎名くん…!!」



蓬田は、走ってきておれに飛びついた。



元に戻ったおれは、よろけることなく蓬田を抱きとめることができた。



―…よっぽど、嬉しかったんだな。


子どもみたいな蓬田に、微笑ましくなる。



『―…お前達に一つ、聞くことがある』



野太い声に、蓬田が慌てておれから離れた。



「…なんすか??」



おれは、空に向かって聞き返す。



『―…記憶、のことだ』

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