《MUMEI》
約束
麻美は諦めなかった。
裸で押し倒されているのだ。女が諦めたら思いを遂げられてしまう。
「やめて、やめてって言ったらやめてくれればいいでしょう!」
しかし義六はやめない。麻美の白い美しい裸体に興奮し、大きい手で荒々しく触りまくる。
このままでは犯されてしまう。麻美は義六の顔面を殴った。
「ああ…」
義六は顔を押さえた。麻美は緊張して身構えた。逆上されたら怖い。
「義六、あなたが悪いんだよ」
義六は顔から手を放すと、怒りの目で麻美を睨んだ。
「貴様」
いきなり麻美をうつ伏せにすると、両手首を交差させた。
「何をする!」
紐で縛っている。麻美は暴れた。
「やめろ、卑怯だぞ!」
義六は麻美の両手首を縛ると、また仰向けにした。
麻美はもがいた。
「麻美、観念しろ」
「やだ!」
だが義六は上に乗り、容赦なく麻美を犯す態勢。万事休すか。
「義六待って、待って!」
麻美は真っ赤な顔をして悲痛な叫びを上げた。しかし義六は無視して侵入しようとする。
「待ってください、お願いですから!」
「麻美、諦めろ」
「諦めたから、諦めたから、少し待って」
義六は入れるのを待ってあげた。
「義六、私の話を聞いて」
「聞くよ」
麻美は乱れた呼吸のまま話した。
「山を下りたら好きにしても構わないから、今は待って」
「この場しのぎの逃げだろ?」義六は笑った。
「違う、約束は守るわ」
義六は迷った。この場で抱いてそれっきりか。それとも彼女の必死の哀願を聞き入れてあげるほうが賢明か。
「麻美、おまえの言うことを聞いてあげる代わりに、俺のお願いも聞いてくれるか?」
麻美は神妙な顔をした。
「何?」
「おまえを妻に欲しい」
予想もしていない話に麻美は口を半開きにしたまま義六を見上げた。
しかし、もしも断ればこの場で大切な体を征服されてしまう。
麻美は顔を紅潮させながら答えた。
「義六、山を下りるまで私に淫らなことをしないのが絶対条件。で、無事に山を下りたら、もう一度あなたの気持ちを聞くわ」
義六は笑った。
「まどろっこしいなあ。面倒くさいの俺嫌いなんだ」
義六が襲いかかった。まずい。麻美は暴れながら叫んだ。
「わかった、妻になるから、なるから!」
義六はやめてあげるとまた笑った。麻美の見えすいた嘘がおかしかったからだ。
「本当か麻美?」
「本当よ、約束をしたら必ず守るから」
麻美の必死さがかわいく、愛おしい。義六は優しく麻美をうつ伏せにすると、手首の戒めをほどいた。
麻美は手首を押さえながら義六を見つめた。
「ありがとう」
とりあえず助かった。もちろん油断は禁物だ。
義六は火を起こした。
「え?」
麻美は目を丸くした。寒いと言うから火は厳禁なのかと思ったのだ。
「騙したわね」
「怒るな麻美」
義六の笑顔につられて麻美も笑みを浮かべた。
山を下りるまでは険悪な関係よりも友好的なほうが安全だ。
麻美はそう考えた。
「寝ようぜ麻美」
麻美は緊張した。
「約束を破ったら…」
「わかってるよ麻美」
麻美は義六を信じて横になると、目を閉じた。
朝になった。
二人は小屋を出た。今度は義六が先頭で山道を進む。麻美を信用している証拠だ。
麻美も義六を信頼するしかなかった。
「止まれ」
義六が小声で言った。見ると山犬が二匹、トントンと弾むような足取りで近づいて来た。
「まずいぞ」
「どうする義六?」
二人の額に汗が滲む。
「麻美を食う前に山犬に食われてたまるか」
「義六に食われるなら山犬のほうがましかも」
「何か言ったか?」
「何にも」
「余裕あるじゃねえか麻美?」
山犬は舌を出しながら人間の様子をうかがう。
「義六、刀をよこしなさい。仕留めてみせる」
「一匹を殺しても、もう一匹に喉を噛まれる」
「じゃあもう一匹は義六が盾になって」
「おい」
漫才をしている場合ではない。
山犬が飛びつく構え。
再び危機一髪!

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