《MUMEI》
愛は会社を救う(8)
「ちょっと教えていただきたいのですが」
「…何でしょう」
由香里は私のためにわざわざ手を止め、誠実そうな眼差しをこちらに向けた。
「藍沢さんは以前に資料室の担当をされてたんですよね」
「はい。入社して最初に担当したのが資料室でした」
身体に似合わぬか細い声だが、派遣の私に対しても礼儀正しい受け答えをしてくれる。
「もしお時間の都合がよろしければ」
そう言って私は右手に持ったファイルを差し出した。
「この雑件ファイルの整理の仕方について、少しご教示いただけないかと思いまして」
黒表紙を見た途端、由香里の顔には微かに当惑の表情が浮んだ。
「あの、これ、私も少し関わったことがあるんですけど、結局うまくいかなくて…」
だが、ここは協力してもらわなくては困る。色よい返事をもらおうと、私は少しだけ威圧するように、その気弱そうな瞳を覗き込んだ。
すると、何か思うところがあったのだろう。由香里は決心を固めたように、その可愛らしい唇をキュッと結び、私の目をしっかりと見据えた。
「わかりました。これが終わったら資料室に伺います」
「助かります。よろしくお願いします」
私は笑顔を浮かべ、丁重に頭を下げると、そのままコピー室を出た。

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