《MUMEI》

そしてここは伊豆半島の懐に抱かれた、ひなびた温泉街…。



美しい紅葉の山々に囲まれた静かな街を流れる渓流のほとりに、紅葉館と呼ばれる古い旅館が佇んでいる。



男は10日ほど前からこの旅館に一人で連泊していた。




男の名は兼松茂三…


歳は55歳…


実は"兼松"という名は偽名なのだが、その理由も後に触れることにする…。



兼松の容姿を一言で表せば"醜"の一文字に尽きる。


酒樽のような腹…


醜く脂の浮いた額…


他人を見下す癖のついた眼差し…


喋る度に口内で唾液が糸を引き、腐臭のような息を吐く。



何かにかぶれたように禿げ上がった頭には、不潔なフケ粒が浮いていた。

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