《MUMEI》
微妙な会話
[急にどうしたの?]


頼の笑い方は不自然だった。


[明日から、本格的に稽古が始まるから]

[それが何?]


(こいつ、本当に気付いてないのか?)


頼の演技の変化に、俺以外にも


[部長も相田先生も、坂井も気付いてたぞ]

[何に?]

[お前、あれから時々、演技中、集中力切れてんぞ]

[あれから?]

[お前達の誕生日パーティーの後から]

[…]


頼の普段の様子は変わらなかった。


しかし


稽古中の僅かな変化に


演技に厳しい部長や相田先生


それに、多分…頼を好きな坂井は気付き始めていた。

多分…というのは


最近、坂井はある男子部員と親しくなっている


…気が、したからだ。


(まぁ、それはともかく、今はこいつだな)


[だから、訊きたい事がある]

[これ食べてからでいい?]

[あぁ]


それから、俺達は黙々とランチを食べた。


(そんなに訊かれたくないのか?)


頼の食べる速度は普通よりかなり遅く


更に、食後のコーヒーを追加した。


(目の前にまだオレンジジュースあるのに)


[食後はコーヒーって決めてるんだ]


頼の言葉は普通なようで、普通じゃないようだった。

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