《MUMEI》

兼松が泊まる"菖蒲の間"は18畳の和室が一間…



床の間には趣きある鶯の掛軸が客人を迎え、その下には重厚な香炉が鎮座している。



丹念に磨かれた座卓には、豪華な巻絵の施された茶櫃と、名産品の新茶が備えられていた。



窓辺から見下ろせば渓流のせせらぎが旅人の疲れを癒し、見上げれば萌えるような秋の野山に心圧倒される…。



伝統のある旅館の風情を漂わせた、落ち着きのある客間だった。



そして和室の奥…



槌立てで仕切られた一角には、既に床が敷かれていた…。



その床は一つだけだったが、枕は何故か二つ並べられていた…。

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