《MUMEI》

しばらく走り回っていると、
とある公園の中で見覚えのある背中が見えた。


「颯ちゃん!」


嬉しくなって思わず大声で呼んでしまった。


なのに……。


十分に聞こえた筈なのに…。


颯ちゃんは振り返らなかった。


そこで初めて気付いた。


颯ちゃんが肩を震わせていると……。


泣いているんだ、と。


颯ちゃんが泣いているのを見るのは初めてだったから、
慌てて近寄った。


それでも颯ちゃんは俺に気が付かなかったみたいで、
俺が颯ちゃんの肩に手を掛けてからようやく顔を上げた。


俺は、あまりに酷い颯ちゃんの姿に絶句した。


「な…にがあったんだ?」


小学生の俺でも分かった。


これはただの喧嘩じゃない。


何故なら……。


颯ちゃんが表情無くして泣いていたから。


その目は、何も映して無かった。


そしてこう言ったんだ。

「信じない。」


「え?

颯ちゃん……?」


「俺は人を信じない。」


「な、何言ってるんだよ!」

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