《MUMEI》 公開拷問朝。 三郎が一枚の紙を握りしめながら、血相変えて晴木のいる部屋に入ってきた。 「晴木殿!」 汗だくの三郎に落ち着いた様子の晴木。 「どうした三郎?」 三郎は麻美の人相書きを見せて聞いた。 「公開拷問とはどういうことですか!」 晴木はとぼけた顔で答えた。 「公開の場で、拷問するということだ」 「そんなことを聞いているんじゃありません!」 怒り心頭の三郎。しかし晴木は涼しい顔をして指示を出した。 「そうだ、麻美を拷問する役目を、三郎に任せよう」 思いがけない言葉に、三郎は蒼白になった。 「そんなこと…できません」 晴木は意味ありげな表情で三郎を見た。 「そうか、では、ほかの乱暴な奴に、麻美の身を任してもいいんだな?」 三郎はハッとして頭を下げた。 「晴木殿、私にやらせてください!」 「では頼む」 晴れ渡る青空。 外には大勢の村人が集まっていた。 女剣士がわざと山賊の頭を逃がした疑いで、これから拷問される。 人相書きを見たところ、かなりの美少女で、それが衆愚の悪性をくすぐり、見物人は満員となった。 高い位置にある舞台には、十字型の木が設置されてあった。 「あそこに縛るんだ」 「どんなべっぴんか早く見てえな」 群集はざわめいている。 すべては晴木の狙い通りだった。 ざわめきが一段と大きくなった。白装束の麻美が出てきたからだ。 湧いた。 想像以上の美少女に、男たちは興奮した。女たちの中には、彼女が悪人には見えないので、心配顔に変わった者も多い。 麻美は手足を縛られた。しかし毅然とした態度で口を真一文字に結び、前方を曇りなき眼で見すえていた。 三郎は険しい表情で言った。 「麻美、素直に本当のことを話せばそんなに酷いことはしない」 麻美は無言で空を見ていた。 「しらばっくれるなら容赦しないぞ」 麻美はじろっと三郎を睨んだ。 近くでは晴木が刀を持ってすわっている。三郎は鞭で空を切った。 「麻美、山賊の頭をわざと逃がしたというのは本当か?」 麻美は三郎を蔑みの目で見た。三郎は怯んだが、鞭を上げた。 「何だその目は。どうやら痛い目に遭いたいらしいな」 鞭が来る。麻美は全身に力を入れた。鞭でおなかを叩かれた。 (え?) 痛くない。 (麻美痛がれ) 三郎の目を読みとった。三郎は裏切ったわけではなかった。麻美は鞭が体に触れるたびに絶叫した。 「ぎゃあああ!」 「吐け!」 「いやあああ!」 群集も目をそむけるが、一部の心ない酔っぱらいが野次を飛ばした。 「裸にしろ、裸にい!」 ゲラゲラ笑う者もいる。三郎は思わず睨んだ。 裸と聞いて日頃は善良な民も、興味本位な気持ちを抑えきれず、淫らな期待感を膨らませた。 こんな美少女が、これほど大勢の前で全裸を晒すというのは、どれほど恥ずかしいことか。 想像しただけで興奮し、自分の理性の弱さに戸惑う者が多くいた。 女たちも、自分がそんなことされたら、たまらないと思いつつも、舞台から目が離せない。 三郎は詰問を続けた。 「麻美、話す気になったか?」 しかし麻美は無言。苦痛に顔が歪み、身じろぎしている。 「裸にしたりはしない。正直に話しなさい」 「裸だ裸だ!」 「脱がせ!」 三郎は振り向きギロッと睨むが、一部の男たちが騒ぎをやめない。 「早く裸にしちまえ!」 「見せろ!」 (愚か者めが…) 三郎は鞭を握る手が震えた。 麻美は晴木から意識を離さなかった。三郎はまさか自分を裸にするようなひどい仕打ちはしないと信じていた。 だが、晴木は何を企んでいるかわからない。 拷問部屋なら我慢できても、大衆の面前で裸を晒すのは耐えられない。 そのとき。 「三郎」晴木が立ち上がった。「貸せ」 三郎は手を出す晴木に、鞭を渡さなかった。 「待ってください」 「生ぬるい」 晴木は強引に三郎から鞭を奪うと、麻美のおなかに一撃を食らわせた。 「あああああ!」 前へ |次へ |
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