《MUMEI》 公開処刑激痛に歯を食いしばる麻美に、晴木は顔を近づけて聞いた。 「麻美、痛いか。話す気になっただろう?」 麻美は晴木の顔を睨みつけた。 「ほう、もっと叩いてほしいか?」 晴木が鞭を上げる。今度は腰に来た。 「あああああ!」 のけ反る麻美を見て、三郎が言った。 「死んでしまいます!」 「死にたくなければ話すだろう」 またおなかを打つ。 「ぎゃあああ!」 おなかは耐えられない。 「話す」 「よし、話せ」 群集も水を打ったように静かになった。 「山道で、山犬に襲われた。あと、私は足を滑らせて、危うく命を落とすところだった。二度もあの人には助けられた」 あの人、という一言に、三郎は嫉妬で胸を焦がし、何も考えられなくなってしまった。 「命の恩人だからわざと逃がしたのか?」晴木が聞いた。 麻美はゆっくり頷いた。 「たわけ!」 鞭でお尻を打った。 「あああああ!」 麻美は激怒した。 「貴様、正直に話したのに何をする!」 「だれに向かって口を聞いている?」 晴木が刀を抜いた。群集は騒ぎ出した。 「嘘だろ?」 「斬るのか?」 麻美は構えた。晴木は本気か脅しか。 (あっ、こいつ、着物だけ斬るつもりだ) 裸を晒すのは悔しいし恥ずかしい。 「よせ」 だが晴木は刀を振り上げた。まずい。赤っ恥をかかせる気だ。 麻美は硬直した。ヘタに動けば体を斬られるから動けない。 三郎が口を挟んだ。 「晴木殿、麻美は意地があるから哀願できないだけで、本心は許してほしいと思っています」 「いい加減気づけ三郎。山賊と一夜を明かしたのだ。麻美と追い剥ぎは、結ばれたのだ」 三郎は目を丸くして放心し、両膝をついた。 「嘘だ、嘘だ…」 三郎を黙らせると、晴木は麻美に迫った。 「命乞いすれば、命だけは助けてやる」 罵倒したかったが、麻美は唇を噛んだ。手足を縛られていては、強気には出れない。 強風が吹いた。 晴木は一瞬辺りを見渡し、刀を持ち直した。 「やめろ!」 一人の男が壇上に上がった。 「義六」 麻美が言った。晴木はそれを聞いて、男を見た。 「義六か?」 「その娘に罪はねえ。俺が脅して逃げただけだ」 「義六…」 晴木の合図で、一斉に待ち構えていた兵士が義六を絡め捕り、晴木の前にすわらせた。 大男が大刀を持ち、義六の背後に立つ。 公開処刑だ。 晴木が見下ろした。 「何か言い残すことはないか?」 義六は麻美をじっと見た。 「ない」 「晴木殿…うぐぐ」 麻美が助命を嘆願しそうだったので、三郎が口を手で押さえた。 「わざと無関係なふりをする義六の気持ちを無にするつもりですか?」 正気を取り戻した三郎の言葉に、麻美は叫ぶのをやめたが、目を真っ赤に腫らしながら、義六を見つめた。 (義六…助けてあげられなくて、ごめん) 義六は満足の笑みを浮かべた。 (人生の最後に、もう一度、愛する麻美に会えて、本望だ…) 大男は刀を振り上げた。群集は息を呑む。義六の首めがけて大刀を振り下ろす……はずが、首の僅か手前で刀がピタッと止まった。 どうしたのか? 大男の手首には、例の赤い大蛇が巻きついている。 「ぎゃあああ!」 「出たあああ!」 兵士たちは数歩後退した。 皆は赤い大蛇の先を怖々見た。それは大蛇ではなかった。舌だ。 人間の大人の二倍はある真っ黒い怪物の口から出ている舌だ。 「何だあれは!」 皆腰を抜かしたように這って逃げた。 群集も総唖然。義六も目を丸くして怪物を見ていた。 麻美だけが俯いている。 晴木も蒼白な顔をしていたが、刀を向けて叫んだ。 「たじろぐな、あれは幻だ。忍者の仕業だ。忍者を探せ!」 しかし幻が暴れ出した。 口から五本の舌を出し、次々と千切っては投げ、千切っては投げる。 幻ではない。現実だ。晴木は焦った。 ドエス魔人は歌いながら兵士たちを放り投げていく。 「あ、千切っては投げ、あ、千切っては投げ!」 鎧袖一触だ。 前へ |次へ |
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