《MUMEI》 衆愚ドエス魔人はやりたい放題の大暴れ。 「あ、千切っては投げ、あ、千切っては投げ!」 三郎が刀を向けて突進した。 「覚悟!」 ドエス魔人の目が光る。舌で容赦なく三郎の腹を打つと、そのままぐるぐる巻きにして逆さまにした。 「君だけは許さないよ」 地面に脳天から急降下するつもりだ。麻美が叫んだ。 「待って、その人は私の命の恩人なの!」 ドエス魔人は首をかしげた。 「そうなん。人間関係って複雑ね。人間に生まれて来なくて良かった、ポイ」 「わあああ!」 草むらに捨てられた。 残るは晴木だ。晴木は蒼白な顔のまま、刀を構えた。 ドエス魔人が口を開く。 「あんたが大将?」 晴木は答えない。 「なら大将に真犯人を教えよう」 「しんはんにん?」 「真犯人は、ここにいる!」 ドエス魔人が群集のほうを指差したので、皆ざわめきながら顔を見合わせた。 「いたいけな美少女が拷問されると聞けば興味本位に集まって、しまいには裸にしろと。これが罪に問われなくて、何でお嬢が罪に問われてるのう?」 晴木は無言。麻美も赤面して下を向いている。 「人間界では罪にならないと言うならば、この僕が罰を与えよう!」 そう叫ぶと同時にドエス魔人が群集めがけてなだれ込んだ。 「ぎゃあああ!」 「わあああ!」 皆一斉に逃げた。 「待ーてー!」 目を剥いて笑顔で追いかける。怖過ぎる。 「逃げろう!」 「逃がすかー!」 一人も残らず逃走するのを見ると、ドエス魔人は再び壇上に戻って来た。 「大将。お嬢は僕の客。連れてっていい?」 晴木は、安堵した気持ちを見透かされぬように刀を下ろすと、早口に吐き捨てた。 「幻に付き合ってるほど暇人ではない」 晴木が去ると、ドエス魔人は麻美の前に立った。 「お嬢、久しぶり、無抵抗だから少しいじめちゃおうかなあ」 「助けに来てくれたんじゃないの?」 「ブラックジョークよん」 「ぶ、ぶらく?」 ドエス魔人にほどいてもらうと、麻美はすぐに義六の縄をほどいた。 「麻美、あの方は?」 「かた?」 麻美はドエス魔人を見た。 「あれは、手違いっていうか…」 「顔広いんだな」 麻美は顔を赤くした。 林の前。 四人の人影とドエス魔人が向かい合っていた。 「それでは僕はこれにて」 たなは笑顔で言った。 「二度と来るなとは言えなくなってしまったな」 「じゃあまた来てもよい?」 「若い娘に悪さしなければね」彩がにこやかな顔で言った。 「それでは来る意味がない」 「調子に乗るな」 たなに睨まれて、ドエス魔人は林の中に消えたが顔だけ出す。 「それではお嬢、達者で」 麻美は俯いていたが、赤い顔を上げた。 「あ、ありがと」 ようやく言えた。ドエス魔人は満足の笑みを残し、去った。 義六は、たなと彩に言った。 「これからは、まっとうに生きてみます」 「それがいい」 「あなたならできるわ」 義六は、麻美を見つめた。 「縁があれば、またどこかで会えるだろう」 「義六」 「麻美、じゃあ」 二人は、言葉少なく別れた。 「いいの?」彩が聞く。 麻美は義六の背中を見ながら、囁いた。 「まだまだ修行中の身だから」 「わしらも旅に出よう。山賊に怪物の知り合いがいたと知られては、道場に来る者もおらんだろう。はっはっは!」 麻美は歩きながら彩に聞いた。 「もしかして、私を山犬から助けてくれた?」 「山犬?」 「はあ…」 麻美は落胆した。 「二度も魔人に助けられるなんて、剣士廃業だあ」 「三度でしょ?」 三人は、追っ手が来ないとも限らないので、旅を急いだ。 END 前へ |
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