《MUMEI》
密告
「由井、大丈夫か?」
燃える建物を眺め、動こうとしない由井にユウゴは声を掛けた。
しかし、由井は遠い目をしたまま答えない。
「おい?」
腕に掛けたユウゴの手を、由井はバッと振り払い、すごい形相でユウゴを睨みつけた。
「由井?なんだよ、どうした?」
わけがわからないユウゴは困惑しながら、一歩後ろへ下がった。
「どうした、だと?よく言えたもんだな、ユウゴ。ええ?」
低い声には明らかな敵意が込められている。
「なんだよ?一体なんのことだ?」
「とぼけんなよ!あの警備隊の奴ら、なんであの場所がわかったと思うよ?」
一歩、ユウゴが下がると一歩、由井が進む。
その雰囲気は、すでにユウゴの知っている由井ではない。
「は?知らねえよ。なんでだよ?」
「誰かが密告したらしいぜ?」
「密告?」
「ああ。だが、俺の仲間たちにそんなことする奴はいねえ。そう、お前ら以外はなあ!」
由井は銃を抜き、ユウゴに向けた。
「っな!俺がそんなことするわけねえだろうが!今まで、俺がお前を裏切ったことなんてあったか?」
「ああ、ないな。そういやそうだ。
それじゃあ、お前の連れてたあの女が犯人かもな?」
「まさか、ユキナにそんな度胸ねえって」
「うるせえな!てめえか、あの女のどっちかなのは確かなんだよ!よくも、俺の仲間を殺しやがって」
怒鳴った由井の指が引き金にかかる。
「ちょっ!待てって!俺らはお前に会ってからずっと一緒にいただろうが!あの部屋からだって一歩も出てない――」
「黙れよ!!」
ついに銃口はユウゴの額に突き付けられた。
その怒りに満ちた目は、これ以上ないほど見開き、充血している。
銃を持つ手に迷いは感じられず、いつ撃たれてもおかしくない。
「……頼むから、信じろ」
ユウゴの心からの声も由井には届かない。
「俺は裏切り者も、国に媚びを売る奴も許さねえ。そんな野郎は死んじまえ」
由井の手に力が入る。
ユウゴは反射的に目を閉じた。
直後、なぜか衝撃はいつまでも来る気配はなく、代わりにドサっと何かが倒れる音がした。
「ユウゴ、大丈夫?」
「……え?」
目を開けると、ユキナがバリバリとスタンガンを鳴らしながら立っていた。
地面には由井が俯せに倒れている。
「ユキナ、お前、どっから?」
「あんたのこと探してたら、今にも撃たれそうになってて。こう、バリっとしてみたんだけど。
どうしたの?こんな時に喧嘩?」
「話は後だ。とにかく、ここから離れるぞ」
ユキナは首を傾げたが頷いた。
「その前に、ちょっと手貸せ」
言いながらユウゴは由井の体を持ち上げる。
「足、持ってくれ」
言われるまま、ユキナは由井の両足を持ち上げた。
「どうするの?」
「どっか、見つかりにくいとこに隠すんだよ」
「助けるの?殺されそうになったのに」
「当たり前だろ」
「ふーん」
「なんだよ?」
「別に。意外とお人好しなんだなと思って」
「いいから、あ、ここでいい」
二人は由井を静かに降ろした。
よく見ると腹に怪我をしているようだ。
できれば手当てをしてやりたいが、なんの薬も持っていない。
「……行くぞ」
ユウゴは走り出したが、さっき由井が倒れていた場所で立ち止まった。
「なに?」
後ろで同じようにユキナも立ち止まる。
そこには由井の銃が落ちていた。
そっとそれを拾い上げ、ユウゴは再び走り出した。
ユキナも黙って後に続いた。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫