《MUMEI》

「私を庇ったつもりなのかしら?」

驚いた……私は光を打てたことないのに、彼はいとも簡単に打った。


「光の為ですよ……愛の鞭です。同じように貴方にも打ってやりたかった。」


「まるであの子の親だわ。」


「光は、貴方に打って欲しかった。
俺は家族にもなれるけど、俺が恋人であることもあいつは分かっているから……すぐに我慢する。
貴方も光を嫌いじゃないでしょう、光はね、そういうの敏感に感じ取れる。」

彼は光の事を私より知っているのだろうか……私は光の事をどれくらい知っている?


「あの子は……知っていたのよ。腹違いの姉が居たこと……
私よりも早く気付いていた、籍は入れてるけど私達は家族じゃなかった。他人が同じ名字を名乗っていただけだったわ。」

私は悔しかったのかもしれない、女として夫の秘密を息子より先に感じ取れなかったことに。


「光はテレビで親の話するとき、夏祭りに花火見たさに護神木に母親と二人で攀じ登った想い出を上げます……、楽しそうに話してますよ。」

そんな昔のことを……光が三歳のときだ、私もまだ若かった。
目を閉じても花火が残光して花畑のようで、名前と同じ『光』だと教えると楽しそうに手を叩いて喜んで……落ちた。

光は腕を折って、私はあの男に責められて……あれ以来光と二人で出掛けなくなった。

それがトラウマとなり、誰かに誉められたくて、光を芸能界に入れた。
良い母親を演じられた気がしたから。

私があの男に別の妻子が居ると知った時にはもう手遅れで、光はあの女の事をもう一つの家族だと言った。

母親らしく振る舞え無かった私の罪だ。
光は私を母親だと認めなかったのだろう。




「迎えに行ってやってください、俺じゃあ道が分からない。」

光の恋人だという彼の指から鍵がくるくると回る。


「その……、キーホルダー」


「ああ、光が付けたんです」

猫の形を模したキーホルダーだ。

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