《MUMEI》

重たい身体をどうにか動かして野球グランドへつくと、
豪田が驚いて駆け寄って来た。


「どうしたんだ!!」


「え?」


「目赤いぞ?

泣いた…のか??」


え?


慌てて瞼に触れると、
瞼はまだ熱かった。


「な、何でもないよ!」


「そうか?」


「ああ!

それより練習だろ?」


「……あ……ああ。」


「俺のことはいいから!

ほら行くぜ!」


試合に変な感情移入をすれば、
命取りになる。


それは普段の練習からでも同じこと。


俺はなるべく心を鬼にして、
マウンドに立った。


そして豪田と共に投球練習を始めたのだった。











「颯馬先輩!!」


「あ?」


「明後日の試合のことなんですけど……。」


「ああ。なんだ?」


「颯馬先輩、前言いましたよね?

客が来るから席とっておけと。」


「ああ。

とらなくていい。」


「ど、どうしてですか?

来るんじゃないんですか?」


「来て欲しくない。」


その一言が、彼の決定打になったようだ。


「はい……。

すみません。」


潔く引き下がって行った。

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