《MUMEI》

「‥‥‥‥‥‥‥」

キッチンには、ケーキの材料が置き去りに。

生地を混ぜている途中で‥僕はその場を離れてしまっていたんです。

支度をしていた事を、すっかり忘れて──‥。

「──────‥」

「リュート、どうしたの?」

アンリ様の御声に、思わず僕は飛び上がりそうになりました。

「申し訳ございません、直ぐに支度を致しますので‥」

頭を下げる僕に、アンリ様は『気にしないで』と仰り──

「私もお手伝いするね」

当たり前のようにエプロンを身に付けられたのです。

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