《MUMEI》
愛は会社を救う(9)
「いったい、どういうことなんだ」
副支店長の、重く押し殺したような声。しかしそれは、総務グループ全員の耳に届いていた。キーボードを叩く音は絶え間なく響いているが、フロア全体の空気は明らかに凍りついている。
「申し訳ございません。それが、その、過去に本社との間に申し合わせがあったようで…」
窓を背に、オフィス全体を見渡せる副支店長席。その前で脂汗を浮かべ平身低頭しているのは、グループリーダーの丸亀だった。
私は資料室に戻る足を止め、社員たちのデスク越しに二人のやり取りを観察した。断続的にしか聴き取れないものの、どのような状況が起こっているのかは容易に想像できる。
「山下クンに確認したまえ」
副支店長が怒気を含んだ小声で命じると、丸亀は深々と頭を下げ、くるりと身体の向きを変えた。その顔は遠目にもわかるほど強張り、紅潮している。おたおたとした足取りで向かう先は、もちろん山下仁美のデスクである。

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