《MUMEI》

初対面で抱き付く女、
嫌いますから。


「何のようだ。」


「颯馬と少し話そうと思って!!」


「……前も行った筈だ。

俺の名前を気安く呼ぶな。」


「え〜?

いつもこう呼んでたからしょうがないじゃん!」


「は?」


いつも?


俺の名前を呼び捨てで呼んでいただと?


「ねぇ、ホントに覚えて無い?

私のこと。」


「…ああ。」


すると、女は途端に悲しそうな顔に変わった。


「幼い頃、近所に“なつ”って子、いなかった?」


いたか?


そんな奴。


「さあ……。

居たんじゃねぇの。」


「居たんじゃねぇの、じゃ無くて、
居たの!!!」


「ふーん。」


「梶原菜月(カジワラ ナツキ)って子、居たじゃない!!」


そう言って、女は自分を指差した。


覚えてねぇよ。


過去のことなんて。


過去はもう……。


捨てたんだから。

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