《MUMEI》

その様子を見ていた老芸妓は、何やら目で〆華に合図を送り、兼松に一礼して先に部屋を出て行った。



その合図に促されたのか、〆華はようやく支度の手を休め、兼松に向き直った。



『兼松様、分かりました…。


私の醜身にそのような高値をつけて下さって有り難うございます…


…今夜一晩だけ、貴方の物になりましょう…。』



謙遜の裏側には嫌味も絡めたつもりだった。



『ほう!そうか!?ハハハ!』



しかし兼松という男はそれに気付きもせず、気に入った芸妓を我が物にできる喜びに有頂天になっていた。



〆華は醒めた眼差しで見下していたが、馬鹿な男は気付いていなかった。

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