《MUMEI》
酒屋の息子
「凪沙〜」
「ん〜?」
「ちょっと石川さんとこにおつかい行ってきてちょうだい」
「え゙え゙え゙ーー」
「早く!!」
「ちくしょー…」
はぁ〜、まじ憂鬱。
なんで休みの日まであいつの顔見なきゃいけないんだよ…
あたしは、コンクリートの角から覗いた。
「ありがとうございました〜またどうぞ」
「げぇ゙…いるし」
いて当たり前。看板息子なんだから。
あたしは、カツヤの働く姿をじっと見てた。
カツヤに母親はいない。カツヤが5才のときに病気で亡くなった。カツヤは泣かなかった。
でも、影で何度も泣いてるのを、あたしは知ってる。親父さんに迷惑かけないよう、必死で平然を装ってた。まだ5才の子供が。
実はあたし、カツヤのお母さんとある約束してるんだよね。
絶対奴には言わないけど。
「何してんの〜?」
「ギャー!!!!」
「ひどい!そんな声出すことないじゃん!!」
「おっ、おどかすなよなあ!!」
「何してんだよ」
「!」
振り向くと、でっかいカツヤが立っていた。
「商売の邪魔だよ」
(ム〜カ〜ツ〜ク〜!!)
あたしは、母ちゃんに手渡された紙を押しつけた。
「?…ちょっと待ってろ」
カツヤは店ん中に戻ってった。
「なぎ買い物〜?」
「まあね。九郎は?」
「俺も。ばあちゃんにさつまいも買ってきてって言われてさ。あ、行かなきゃ。んじゃね〜」
「え。…って、ちょ、ちょっと!!おぃ!!くっ…」
超スキップで去って行った。
(2人きりにすんなよー!!!!!!!)
「ん」
「ギャッ!!」
ぬっと手が横から出てきた。
「全部入れといたから。」
「…どーも」
「あれ、渡しといてくれた?」
「は?」
「今朝渡した紙」
「…あ」
「また忘れたのか」
「っ…!渡そうとしたらこんなもん頼まれたんだよ!!」
暴言吐いて、あたしは走った。
カツヤがそのとき、小さい声で何か行ってたけど、そんなん全然聞こえないし、聞きたくもないっつーの!!
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