《MUMEI》

「大切に使わさせて頂きますね」

マフラーを首から外して、そっと袋に戻しました。

今度外に出る時には、これを身に付けて行こう、──そう思いながら。

「もうひと切れどう?」

「はい、では──頂きますね」

フォークで端を切り取って口に運ぶと、ふんわりと優しい甘さが。

「アンリ様も──御掛けになって下さい」

「?」

「貴女様も、どうぞ」

僕がケーキを切って差し上げると、アンリ様は少しはにかんだ御様子で、フォークを手にされました。

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