《MUMEI》

ユウゴは振り返るが、木が邪魔をしてよく見えない。
しかし音だけは確実に近づいて来ている。
ユウゴはできるだけ後ろを気にしないようにしながら急いで斜面を登っていく。
大股で足を前へと踏み出していると、ふいに視界が開けた。
すぐ目の前には白いガードレール。
その向こうには道路が見える。
ユウゴは休む間もなくガードレールに手をかけると、それを飛び越えた。
しかし、着地と同時に背後からでガチャッと固い音が聞こえてきた。
ユウゴはギクリとして動きを止め、ゆっくりと振り返る。
すると、木にもたれて姿勢を支えた追撃隊が二人、こちらへ銃を向けていた。
「……なんだよ。あんたら、登るの早過ぎだろ」
じわりと嫌な汗を背中に感じながらユウゴは言う。

追撃隊は銃を構えたままゆっくりと木から離れ、こちらへと近づいて来た。
銃を相手に小刀は不利だ。
しかし、相手の気を一瞬でも引けば、持っている銃を取り出せる。
ユウゴは瞬時に考えを巡らせると、持っていた小刀を二人に向けて投げつけた。
突然の行動に、追撃隊は一瞬怯む。
その隙にユウゴはウエストにはせていた銃を取り出し、構えた。
カツンと小刀が一本の木に突き刺さる。
それを合図にしたかのように、三人の指が動いた。
一斉に銃声が響き渡る。
ユウゴは自分の体が固いアスファルトに倒れるのを感じた。

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