《MUMEI》
一日目終了
無言のまま、二人は走り続けた。
由井は大丈夫だろうか。
何かの誤解で、あんなことになってしまったが、もう一度会った時、必ず誤解を解かなくては。
あんなにいい奴にはこの先、二度と会えないのだから。
そんなことを思っているユウゴの後ろではやはり、ユキナが何やら思っているようだった。
「なんで……」
「え?なに?」
ユウゴは走るスピードを落としながら振り返った。
「なんで、あんなことに?警備隊が向こうから参加者を襲うなんて、ルール違反なんじゃないの?」
ユウゴは走るのを止め、歩き出した。
「……由井たちは、ルールを無視した異端者たちだから、奴らにとっては参加者じゃないわけだ。だから、壊滅させるために襲撃した」
「でも、なんで場所がわかったんだろう?」
「由井が言ってた。密告があったらしい」
「密告?」
ユウゴは頷いた。
「……ひょっとして、それで?」
「ああ。俺たちがやったんだろうって」
「そんなこと、するわけないのに!」
「当たり前だ。けど、俺たちが現れた直後の襲撃だ。疑われても仕方がない」
「せっかく仲良くなったのに。あんな死に方、かわいそう」
ユウゴの脳裏に、あの少年グループの笑顔と死に顔が浮かんだ。
まだまだ人生これからなのに、無惨な死だ。
「とにかく、これから俺は誰に会っても頼りにしない。一人で生き抜く」
拳に力を込め、ユウゴは決意した。
「わたしは?」
「…好きにすればいい」
「じゃあ、ついて行く。わたしは一人で生き抜く自信なんてないし。はっきり言って、ユウゴを頼りにしてます」
妙に力を入れてユキナは断言する。
ユウゴは苦笑しながら「好きにしろよ」と、もう一度繰り返した。
すでに時刻は明け方近く。
前日の疲れが全くとれないまま、二日目に挑むのは正直つらい。
二人は休める場所を求めてさ迷った。
「ここなら、しばらく大丈夫だろ」
やがて、二人がたどり着いたのは、潰れかけた廃屋だった。
「えー、ここ?」
あからさまに不満を表しながらユキナが言う。
「嫌ならいいぜ。俺はここで休むけど」
「………わかったわよ。ここでいい」
よほど一人になるのが嫌なのだろう。ユキナは渋々頷いた。
廃屋の中は荒れに荒れており、床は抜け、埃は厚く積もり、蜘蛛の巣が張り巡らされている。
「で、どこで休むの?」
「そこらへんで」
「勘弁してよ。せめて何かシートとか敷かない?」
「そんなのどこにあるよ?」
ユキナの視線がユウゴのジャケットに向いた。
「……これ?」
ユウゴはジャケットを手で引っ張った。
ユキナは深く頷く。
「はあ?あのな、これ、俺のだぞ?」
「知ってる。貸してよ」
「いやいや、なんで?」
「埃まみれになるのが嫌だから。わたし、女の子だし」
「意味わかんねえし」
「いいから貸してよ。じゃないと、この食料分けてあげないよ?」
ユキナは昼間、人の家から持ち出した菓子をちらつかせた。
「へいへい。分かりましたよ」
ユウゴは仕方なく、ジャケットを渡した。
「どうも」
ユキナはそれを受け取ると遠慮なく埃まみれの床に敷き、その上に座った。
「……けっこう高かったのに」
ユウゴの呟きは、彼女の耳には聞こえないようだった。
もうすぐ夜が明ける。
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