《MUMEI》 月のうみ正吾の様子がおかしくなったのは、あの、女が溺れ死んだ日からだった。 女の青白い顔を見たときだ。 「あいつは、俺の親父が町で拾ってきたんだ。幼いころから、俺と事件に関わってきてる。 だから、死体なんて見慣れてるはずだ。」 その正吾が。 女の顔を見たとたん、血の色を失った。 目に明らかな恐怖を浮かべて。 「それ以来、眠れないらしい。」 それだけではない。利光を、避けるようになった。 もともと、それ程仲が良くもなかった。 それでも、朝夕、会話はしていた。 最近は、目もあわせない。 「何があったのか聞こうとしても、何でもないと言う。」 そんなはずがないのに。 大きな瞳にくまをつくり、苦しそうに眉をひそめて。 それでも。 大丈夫だと、視線をそらす。 「それで、私なら何か知っているのではないかと。」 「・・・そうだ。」 正吾は、実際利光の右腕だ。彼がそんな調子では、仕事に支障がでる。 現に、仕事が溜まってきていた。 「あんたは、あいつと仲が良いだろう?」 どうにかしなければ・・・ 前へ |次へ |
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