《MUMEI》
お見合い
「…何、これ…」
顔がひきつる。
「何って、お見合い写真に決まってんじゃない」
クラ〜っと倒れそうになる。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、いくらなんでも早くない?」
「そんなことないわよ〜。早いうちから婿さま取らないと。その人もあんたと同じように修行してもらわなきゃいけないんだから」
言われてはっと思い出した。
そう。あたしと一緒になる男は、嫌でもにしのやに婿入りし、板前修行しなくてはならない。
そんなこと、快くやるなんて男がいるわけない。
だから、あたしの結婚相手はお見合いしかないのだ。
(すっかり、忘れてたな…ははっ……)
「って、こんなにたくさん用意したけど、実はもう決まってるのよね」
「!」
(なにーーーー!!!!)
「そ、そうなの??」
「うん。この人。」
母ちゃんがそう言って指指したのは、一際目立つスーツ男だった。
「……レベル高くない?」
唖然としてしまうほどのイケメンだった。
「この人、見たことない?」
「へ?」
知り合いだっけ??
じーっと写真を見る。
(え〜こんなイケメン、あたしゃ知らないよ〜?)
「よくお泊まりにくるお客様よ。ほら、ホテル¨篝火¨の社長さまっ」
(…………)
「ああーー!!本当だ。あの人だ…へぇ〜、スーツ着るとやっぱ変わるなあ〜」
ホテル篝火は、最近できた高級ホテル。この人は、そのホテルの新社長だった。
気付かないのも無理はない。だって、泊まりに来るときはふっつーのサラリーマンの休日〜みたいな格好なんだもん。
まあ、着てる服とか身につけてるものは見たことあるブランドばっかだったけど。
「ぜひ、お見合いさせてほしいって、社長直々に来られたのよ?」
「まじで!?なんで!?」
「どーも、ここに来てた目的は、あんただったみたい…」
ニヤニヤする母ちゃん。
(まじかよ…)
でも、よく考えたら、これはラッキーなことかもしれない。
ん?
「ちょっ、ちょっと待って、この人社長なんだよねぇ??板前なれないじゃん!」
社長さんに修行させるわけにはいかないでし…
「ああ、「喜んでやらせていただきます」って」
「は?」
「結婚したら、社長はすぐ下の弟さんに譲るそうよ。弟さんも優秀な方らしいから、お父様はどちらが継いでも別にいいんですって」
わーお。
飛んで火にいる夏の虫?じゃなくて、棚からぼたもちか。
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