《MUMEI》

突然、腹の上に重みを感じた
丁度、子猫が乗るくらいの軽い重み
その正体を確認しようと、田畑 正博はそちらへと視線を向ける
見た先に居たのは何故か一人の少女
田畑に抱きつくような格好で倒れ込んでいた
「痛いです……。ここ、何所なのでしょう?」
田畑の上に乗ったままでいる事には構う事はせず、懸命に状況を把握しようとしている様だったが
田畑の方は正に混乱の渦中にいた
猫耳を生やした少女が自分の腹の上に居る
そんな有り得ない状況が、今正に田畑の目の前にあるのだから無理もないだろう
取り敢えずは自分の存在を主張してたる為、猫耳を軽く引っ張ってみた
ピクリと耳が動き、少女は漸く田畑の存在に気付く
「……ここの、お家の方ですか?」
唐突に問われ
だが一応は、そうだけどと返してみる
と、少女は田畑の腹の上でその姿勢を正していた
「私、Cat`sといいます。一応、幸せを運ぶ妖精です。以後、お見知りおきを」
丁寧な挨拶に、田畑は瞬間返す言葉を見失うが、何とか探し出し
「そりゃご丁寧にどーも。で?その幸せの妖精さんが俺に何か用か?」
口早に用件を問うてみた
「私、Big catのご命令であなたに(幸せ)を運ぶようと言い使って来ました」
「幸せ?」
「はい。私達は、出会ったご主人様に沢山の幸せを運ぶのが仕事なんです」
「つまり何か?お前が俺を(幸せ)にするって事か?」
「はい。一生懸命頑張ります。だから、お傍に置いてくれますか……?」
断られてしまう事を恐れているのか、耳がすっかり下がってしまっている
突然に言われた事なのに、その姿を見せられてしまったら、否と言える筈もなく
承諾、してしまう
「ありがとうございます!ご主人様」
「正博」
「え……?」
「俺の名前、田畑 正博っての。別にここに居ても構わんけど、その(ご主人様)ってのは無しな。正博って、呼んでみな」
「正、博君……?」戸惑い気味に名田畑の名を呼ぶその姿が、本当に仔猫そのものの様で
田畑は微笑むと少女の頭に手を置き数回撫でてやった
「正博君が笑いました。とっても嬉しいです」
「そう言えば、お前の名前、まだ聞いて無かったな。何て言うんだ?」
教えてくれるか?との田畑に、少女はゆっくりと首を横へと振る
「名前、ないんです。私達は皆、Cat`sって呼ばれてるから……」
「そか。けど、全員同じってのも何か面白くねぇな」
考え始めた田畑の手が、無意識に少女の耳へと伸びる
ふわふわした感触の猫耳。
される度くすぐったいのか小刻みに動く
「(ファファ)ってのどうだ?」
「え?」
「お前の名前」
耳を弄る手はそのままに突然に名前の提案
猫耳を弄っていて、そのふわふわした感触に何となく思いついた名前で
本当に思い付きだけの名前だった
「ファファ……。私の名前……」
「他のがよけりゃ、他の考えるけど?」
多少なり照れたような田畑の様子に、少女は首を横へと振ると田畑へと笑んで向ける
気に入ってくれたのか、耳が更に忙しく動き出した
「ファファ、一生懸命頑張ります!正博君、宜しくお願いしますです」
「こちらこそ。よろしく、ファファ」
再度頭を撫でてやる
突然舞い降りた幸せの妖精
これから始まる共同生活に、何となく楽しみを抱かずにはいられない田畑だった……

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