《MUMEI》

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数刻後…



『桜庭さん…』



〆華の呼び掛けに、入り口で待機していた大男が、襖を開けて中に入ってきた。



それはノータイのスーツに身を包んだ、年の頃40代半端位の、ガッチリとした体格の男だった。



桜庭と呼ばれるその男は、老芸妓の甥で、〆華達の付き人だった。



〆華は兼松から勝ち取った札束を桜庭に手渡す。



『――――……。』



桜庭は無言で兼松に一礼すると、踵を返して菖蒲の間を出て行った。



しかしその恐持ての風貌が放つ男の気配は、閉じられた襖の向こうからでもビシビシと兼松を威圧する…。



あわよくば力ずくでも〆華をモノにしようと企んでいた兼松の思惑は、桜庭の存在によって脆くも崩れ去った。

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