《MUMEI》 猪狩の様子がおかしくなっていることは、 誰の目にも明らかだった。 明らかに怒っている様子の猪狩。 だが、 彼の頭に敗北という言葉がよぎった瞬間… 彼の顔は、 妙に寂しげだった… その猪狩の表情を、 クロは見ていた。 (猪狩… そんな顔すんなよ… なんでかな? お前を見てると切ない気持ちになる… たぶん僕は、 お前の気持ちがわかるんだと思う。 僕の勝手な気持ちかもしれない。 勘違いかもしれないよ? でも… たぶんわかってる。 ハンドボールが好きなんだろ? だけど、 それは一方通行の思い。 スポーツをやってる以上… 上手く行かない時がある。 誰だってそうだと思う。 一方通行の思いでしかないんだけど、 その思いは強くて… でもだから… 裏切られた時の気持ちは大きくて… そんな気持ちが、 僕にはよくわかるんだ…) かつて、 赤城北高校の体育館で、 大事に掴んでいた何かを離してしまった高校生がいた。 猪狩圭吾。 しかし、 彼だけではなく、 壁にぶつかったり、 挫折を経験して、 その手を離してしまった者は大勢いただろう。 そして… 黒田小太郎。 彼もまた… この体育館で大事な何かを離してしまった1人だった… 前へ |次へ |
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