《MUMEI》
「後悔するぞ〜」
「にっ、ニヤニヤすんなよ!…だ、だってさ、」
あたしは、九郎に話し始めた。
「は〜、あの日、カツヤもね〜」
「しかも、誰なんだーって聞いても、無言だった。無言だぜ!?無言!」
「怪しいっちゃ〜、怪しい…」
「だろ〜。…それにさ、」
「ん?」
「好きに、なっちゃいけないんだ。」
「…なんで?」
「あたしはさ、軽い気持ちで付き合いたくないんだ。付き合うなら、この先ずっと一緒にいるって約束したい」
「それは、当たり前のことだぞ?」
「だからさ、あたしと…そー…なるってことは、さっ」
「結婚?」
「!…う、ん、それ。結婚、するってことはさ、強制的に旅館で働くってことだからさ。申し訳ないじゃん」
「……」
「夢とかさ、捨てなきゃいけなくなるんだぜ?そんなん…申し訳ないじゃん」
「なぎ…」
「それに比べてさっ、そのお見合いの人は、旅館で働くことに意欲的だし何より、あたしのこと気にいってくれてる。だからさ、そういう人にもらわれたほうが、あたしも旅館も大助かりってことっ」
はははっ。て、声に出して笑ってみた。
わざとらし。
「俺は、なぎが幸せならそれでいいよ」
「九郎…」
「お見合い、いつなの?」
「明日」
「早っ」
「すぐ会いたいんだってさ」
「は〜、相当な変わり者なんだ〜…あ。」
ボカッ
「いたたっ…」
「ったく…」
「なぎ」
「ん?」
「俺、今から秋奈んとこ行ってくるな」
「おう」
「明日、頑張れよな」
「おう」
九郎は、猛ダッシュで走ってった。
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