《MUMEI》
奇跡と圧倒
季紫の頭の中の音が消えると同時に、季紫の外見上の変化も終わっていた。

髪は完全な漆黒に変わり、服は首周りの白いライン以外全てが黒に染まっていた。黒のズボンは縦一直線に細い赤のラインが流れている。

「…?何の手品ですか?この状況で手品など、何を考えているのやら…わかりませんねぇ、その状況でなに」

をしたいのか、と言い掛け、その言葉が途中で途切れた。周りの者達はどうしたのかと思ってその目線を辿ると、すぐに理由が分かった。


そこには立ってこちらを見ている季紫の姿があった。冷めた眼でこちらを見回す、黒と白が主な色の青年の姿が。

初めは当たり前過ぎて分からなかった者達も徐々に一つの事実に気付き始める。


"何故、拘束が外れている?"

「久しぶりに───」

最初に口を開いたのは季紫だった。

「感じたよ。」

「本当の怒りって、こんな感じなんだなぁ…」

少し寂しげに、目は喜多を凝視し、静かなしかし確かな怒りを持って、睨み続けながら。

「覚悟。………いいね?」

「!!?!!!っ!」

一方、喜多は季紫から確実な恐怖を覚えていた。あまりの恐怖に自分の余裕の笑みがひきつった笑みに変わっていることに気付けないほどに。

それは周りの者達も同じだった。その怒りは自分達には向けられていないものの、
"まだ勝てるか勝てないか"
のところまで来ていると、だがまだ勝てるとは皆が思っていた。




───だがその場にいる誰もが同じように気が付かなかった。


既にその思いこそ、季紫の恐怖による。

"思い違い"ということに───

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