《MUMEI》 「あら、有志さんと……ご友人のお方は……二郎さん?」 優美な足取りで近付いてくる、あれはお嬢様だ…… てか、向こう俺を知っているのか? 「瞳子さん……と、おーちゃん!」 あ、遠くて気付かなかった。よく見ているな安西は。 「有志さん達も映画鑑賞にいらしたのですか?」 いらしたのですかって……、どう返せばいいんだ? 「はい、観てきたところです。瞳子さんはこれからですか?」 うお、流石元お坊ちゃま…… 「実は私、自分で時間を調べてチケットを支払うのが初めてで……少し緊張してしまいました。」 セレブだ、この人セレブだよ! 物腰とか服装も一般人とはさりげなく違うし、後ろの神戸も瞳子さんに合わせて気品漂う装いだ…… 「そうそう、二郎さん、今度ゆっくりお茶でもいたしませんか?携帯の連絡先……有志さん出来れば仲介して戴けます?」 「あ、はい。今、赤外線通信しちゃいますね?」 どわー、セレブさんとお茶だなんて気が休まらないよ……! 「瞳子さん時間が……」 神戸、いつにも増してぴりぴりしてる……? 「あら、いけない。また近いうちに連絡しますね。それではさようなら。」 なんて優雅な去り姿なんだろうか……。 みんな彼女を自然と目で追ってしまっている……美しさは罪というやつか。 「誰今の……私近寄れ無かったよ……」 水瀬が水を持ってきてくれた。 「か、神戸の彼女?」 あてずっぽうです。 「はい?」 安西に二度見された。 「なんて……うっそー。」 キツイ言い訳だ。 「「なんか変」」 二人とも鋭いっ……いや、俺が嘘つくの下手? 「ま、まー……ちょっと記憶喪失みたいな?今、瞳子さん?のこと思い出せなくてね……はい、それだけですっおしまいっ!」 強制終了かけても訝しげにしていたが、俺の調子悪いのを気遣ってくれたみたいで問い詰められなかった。 前へ |次へ |
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