《MUMEI》
白の水着
真夏。
愛梨は室内プールで気持ちよく泳いでいた。
そろそろ夕方になる。彼女はゆっくり上がり、プールサイドを歩いた。
二十歳の健康的な体。白のビキニ。愛梨は男たちの視線を感じてしまうが、悪い気はしなかった。
髪はやや茶髪で、肩に少し触れるくらい。
愛らしく、魅力的な表情を見せるが、目力を思わせる目の強さが特徴的だ。
愛梨は更衣室に入ると、シャワーを浴びようとした。
人がいない。珍しい。彼女は少し気になり、部屋を見渡した。
何か気配を感じるのは気のせいか。
「どなたかいますか?」
怖いので声を出してみたが返事はない。
愛梨はシャワーを浴びるのをやめ、さっさと着替えて帰ろうと思った。
ロッカーを開けると、ちょうど携帯電話が振動した。
店長からだ。
「はい」
『愛梨チャンか?』
「どうしました?」
『明日休みになってるけど出れる?』
愛梨は居酒屋でアルバイトをしていた。
店長の小林は優しい、きさくな40歳。一生懸命働く愛梨を信頼していた。
「明日ですか。明日は、大丈夫ですよ」
『蟻が十!』
愛梨は呆れ顔。
「ダジャレはやめましょう」
『滑った?』
「以前の問題です」
小林は咳払いをすると、本題に入った。
『実は前から愛梨チャンに言おうと思ってたんだけどさあ』
「何ですか?」
『ブログ読んだぞう』
「嘘」
愛梨はやや赤面した。
「恥ずかしいですね」
『でも大丈夫か。あんなに毎日バサバサ斬って』
「バサバサ?」
『政治家から作家から徹底的に斬りまくって、まるで破れ傘の悪人狩りだな。てめーら人間じゃねえや、叩き斬ってやらあ!』
二十歳の愛梨は返答に困った。
「破れ傘?」
『何でもないんだ。忘れてくれ』
世代の違いを考えないで喋るのが、小林店長の悪いところだ。
『とにかくさあ、名指しで斬るのはヤバいと思うけどなあ』
しかし愛梨の目がキリッと光る。
「店長、風刺は大事ですよ。庶民を見下す政治屋なんか許せないし、少年少女に悪影響を与える漫画家は斬らなきゃ」
『だけど正義感が裏目に出てさあ、逆恨みされたら怖いじゃん』
「ビビってたら何も書けませんよ。でも、心配してくれて嬉しいです。ありがとうございます」
『天に代わって破れ奉行。てめーら、斬る!』と言って電話は切られた。
愛梨は首をかしげた。最後の言葉も意味がわからない。
彼女は軽く伸びをすると、ロッカーからTシャツとジーンズを出した。
足音。
慌てて後ろを振り向くと黒覆面が二人。
「きゃ…」
プシュー!
悲鳴を上げる前にスプレーが早かった。愛梨は意識が朦朧とする。
女がこんな格好で気を失うのは危険過ぎる。
しかし彼女は力なく仰向けに倒れた。
セクシーな白の水着姿を見て、黒覆面は欲望の笑みを浮かべた。
無防備な彼女を淫らな目でながめていたが、軽々と肩に担ぎ上げると、その場を去った。
どれくらい眠っていただろうか。
そんなに長い時間ではない。
愛梨は静かに目を開けた。
「んんん!」
すぐに異変に気づいた。
猿轡をかまされ、声が上げられない。
大きなベッドの上に寝かされていて、手足は大の字に拘束されて全くの無抵抗だ。
上品な彼女にとって大股開きは屈辱的なポーズだが、そんなことは言っていられない。
ただ全裸ではなく白の水着を脱がされていないのは武人の情けか。
それでも黒覆面6人に囲まれては生きた心地がしない。
愛梨は泣きそうな顔で必死に首を横に振った。
ボス格らしき黒覆面が一歩前に出ると、渋い声で話しかけた。
「お目覚めかな、お姫さま」
「んんん!」
愛梨は恐怖のあまり涙を流してもがいた。
「女の子が水着姿で手足を縛られて無抵抗。結構スリル満点だろ?」
「んんん!」
何がスリルか。恐怖でしかない。愛梨は激しく暴れた。
「んんん!」
ボス格が顔を近づけてゆっくり話す。
「大丈夫。レイプが目的ではないから」
「……」

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