《MUMEI》

菊若は指を唇に当てた。
考え事をする時の、癖だ。
「・・・私が一番最近に正吾さんに会ったのは、1週間前ですね。」

もともと、菊若と正吾は、茶飲み仲間だ。
その日も、正吾が団子を持ってやって来た。

「さして変わりは無かったと、思うんですけど・・・」

菊若は、仲の良い少年の顔を、思い浮べる。鼻が高く、薄い色の瞳。同じように、薄い色の髪は、日にあたると輝いた。
いつも笑っている自分に比べ、時々皮肉っぽく微笑む。
ひどく、大人びてみえた。
「「怖い夢を、見るんだ。」」
ふと、正吾の声がよみがえって、目を見開く。

「「どんな夢?」」

首をかしげる自分に、いつもどうり微笑むだけ。

ただ。

その目が、寂しそうだったように思う。

「・・・何があったんだろう。」

急に、不安になった。

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