《MUMEI》

「……虚無の海に沈んでしまいたい。」


小さく美しい蝶、
羽音が聞こえた。


彼は以前にもあのような事態に巻き込まれたのか。

俺は彼を潰さないようにそっと抱きしめる事くらいしか出来ない。
間近で触れ合う肌は信じられないくらいに小さくて、陶器のような滑らかさと体温が、艶かしくて鳥肌が立つ。






「汚れた……あかく……首が無い……」

首が無い?
若菜の首はあった。
俺はそういえば、背格好で判断したがあの死体は若菜だったか?
それとも、化野アヅサの事件の記憶が混濁しているのか?


「……」

言葉が見つからない、若菜はよく笑う、俺があまり話さなくても息が詰まるようなことはない空気感を作ってくれた。
そんな彼女の遺体を跨いでしまっていた。

斎藤アラタを救いたい一心で。
彼女と約束したから。

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