《MUMEI》
全裸写真
愛梨は必死に哀願した。
「警察には絶対に言いません。写真だけは許してください!」
しかしボスは言う。
「君はしっかりしてそうだから、警察に言うタイプと見た」
「言いません。信じてください」
「でもさっき泣き寝入りはしないと言っただろ?」
「変なことしたらです。何もされていないんだから言いませんよ」
愛梨の泣きそうな顔を見て、ボスは笑みを浮かべた。
「写真を撮られたら、女の子は不安だろ?」
「不安なんてもんじゃありません。男の人には絶対わからない」
「わかるさ。ネットで自分の裸がバラまかれたら、ちょっと恥ずかしいよな?」
愛梨は怒りを抑えてボスを真っすぐ見た。
「お願いです、写真だけは許してください。この通りです」
寝ながら頭を下げる愛梨がかわいくて、ボスは彼女の頬に手をやった。
「言いたいことはそれだけか?」
「え?」
愛梨は焦った。
「おい。おまえら、さっさと済ませろ」
「へい」
愛梨は全身を硬直させた。
黒覆面二人が動く。一人はカメラを構え、一人は水着の紐を掴んだ。
脱がされてしまう。
「え、何で、言うこと聞いてるのに?」
だが黒覆面は聞く耳を持たない。紐を引っ張られた。
万事休すか。
「やめて!」
やめてくれた。
愛梨は悔しくて思わず泣いてしまった。
真っ赤に目を腫らし、しゃくり上げる。
「裸は恥ずかしいか?」
愚問だが、愛梨は頷いた。
「恥ずかしいです」
「そうか。女の子には個人差があるからな。裸を見られるのが平気な女と、愛梨みたいなシャイな子がいる」
ボスは片手で愛梨の体を触りながら言った。
「わかった。かわいそうだから写真は許してあげよう」
悔しいけどお礼を言うしかない。
「ありがとうございます」
「俺も鬼ではない。いい子には弱い」
そう言うとボスは、さっさと部屋を出ていった。
再び緊張感が高まる。
水着姿のまま手足を拘束されいる状態で、5人の黒覆面に囲まれている。
愛梨はもがいた。
「ほどいてください」
黒覆面は顔を見合わせると、すぐにほどいてくれた。
助かったか。
愛梨がベッドから下りると、男たちは彼女の着替えや携帯電話を差し出した。
一緒に服や荷物を持ってきていたとは。
この冷静さに愛梨は怯んだ。
彼女は水着の上からTシャツとジーンズを身につけ、バッグを持った。
今度は車に乗せられて、アイマスクで目隠しをさせられた。
車が走り出す。後部座席で両側から挟み撃ちにされては、逃げようがない。
車が止まった。
アイマスクを取られた。男たちは黒いサングラスで目を隠していた。
「下りていいぞ」
「え?」
驚愕の表情。そこは愛梨の住むアパートの目の前だった。
「嘘」
「引っ越しても無駄だ。でも安心しろ。警察に言わなきゃ何の問題にもならねえ」
愛梨は力なく頷くと、車から出た。
車は走り去った。
彼女は急いで部屋に入ると、鍵を締めた。
「助かった…」
シャワーを浴びて脱衣所に出ると、バスタオルを体に巻いた。
ベッドに腰をかけると、一気に疲れが出てきた。
愛梨はバスタオル一枚のまま掛布団をかぶった。
セピア色の部屋。
愛梨は目を覚ますと、うつ伏せになり、枕を抱いた。
時計を見ると深夜だ。
「ふう」
軽く伸びをしながら仰向けになると、黒覆面がいた。
「きゃあ!」
10人はいるか。一斉に手を出し、手足を押さえつけられた。
「ブログ、まだ閉鎖していなかったね?」
愛梨は慌てて即答した。
「今目の前で消しますから」
「約束を破ったね」
「消します、ごめんなさい」
「もういい」
一人がすかさずカメラを構える。ボスはバスタオルに手をかけた。
「待って!」
バッ!
「いやあああ!」
タオルを取られた。裸を晒してしまった。恥ずかしい!
カメラの音。
「やだ、絶対やだ…やめてえ!」
ガクンとなって目が覚めた。
「え?」
夢。
愛梨は呆然となった。
「嘘でしょ」

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