《MUMEI》
一世一代の賭け
校門が近付くたび緊張も高鳴ってきた。

ヤバイ。ホント、どうやって断ろう?普通に『ごめんなさい』じゃ諦めてくれなさそうだし。このまま見つからずに素通りできたらベストなんだけど…

「沢村君っ!」

やっぱ無理だよな。

「ごめんね。待ったでしょ?」
俺は笑顔で対応する。心の中でこれ以上ないって程ムカついてるけど。
「ううん。私も今来たとこ」

嘘つけ。結構前から居たくせに。

「け、今朝の返事なんだけどさ…」
言った瞬間身体から変な汗が出てきた。ここから先が真っ白だ。

「うん!考えてくれた?」「まぁ…ね。」

断る口実をな。

「それで?やっぱ私じゃダメ、なのかな…。」
女は今にも泣き出しそうだ。目が潤みだしている。恐れてた展開だ。これだから女は嫌になる。泣いたら許されるみたいな考え、やめてくんない?
「い、いやだからさ…」
心は邪悪でも世間定を気にする俺のポリシーは『女をなかせない!』ことだ。何とか泣かせずに、尚且つ断る方法を見付けようと、しどろもどろになっていた。
俺、今すげぇ格好悪い。

その時だ。

「ごめ〜ん沢村君。待ったぁ?」
そう言って女の子がこっちに走って来るのが見えた。
誰だよ、こんな一大事な時に!って…え?

「はぁはぁ。遅くなっちゃってごめんね。」
可愛い上目使いで謝るその子を見て俺は言葉を失った。

竜崎!!?

「沢村君、この子は?」
今まで泣きそうだった女も急な登場人物に呆気を取られたようだ。
「え…っとコイツは…」
上手くアドリブが出てこない。

竜崎の野郎!どういうつもりだよ!?

「私?沢村君の彼女だけど。」

なるほど、そうきたか!

「ホントなの?沢村君。」
しめた!男だってバレてない。

「うん、ホントだよ。だから今朝ゆったじゃん。」
俺は竜崎の嘘に乗った。
「俺、今コイツの事スゲー好きだから君とは付き合えない。ごめんね。」
「やだ、沢村くん!恥ずかしいじゃない!」
女装した竜崎が俺の腕を組んできた。声まで女みたく聞こえる。

なんか俺ドキドキしてね?嘘ついてるからか?

「彼女の事、ホントだったんだ。」
「うん。だからさ…」
「ごめんなさい!私、疑ったうえに待ち伏せまでして…迷惑だよね。彼女、大切にしてあげてね。」
「う…うん。」
そういうと女は走り去っていった。

なんか複雑。取りあえず諦めてくれたみたいだけど。
俺は大嘘つきだ。閻魔様、今日だけはお許し下さい。

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