《MUMEI》

ところが、目の前にいたのは親父だった。


俺は呆気に取られて、
その場にへなへなと座り込んだ。


「お、親父?

大丈夫なのかよ?」


確か親父は肺を患っていたはず。


最初はなんてこと無いだろうと思われていたのだが、
どうもそうでは無いみたいだ。


「ああ。

一時帰宅を許してもらった。」


そう言って、
親父は大好きな馬刺を口に運んでいる。


見る限り元気そうだ。


「だったら良いけど……。」


「今日も練習だったの?」


キッチンから母さんが顔を覗かせた。


「うん…て、母さんもいたのかよ。」


「ええ、そうよ。

何か言いたいことでも?」


「いや、無いけど。」


「練習にしては随分と遅かったな。」


「ああ。

練習後に颯ちゃんの練習してる競技場に行って来たんだ。」


「ほお、アイツ日本に戻って来たのか。」


途端に親父は驚きの声を上げた。


なんだ親父……新聞見てないのかよ。


「うん。


明後日颯ちゃんの試合があるんだ。」


「へぇ……。

楽しみね。」


「うん。

あ、このこと豪田達に伝えないと!!」


俺は慌てて自分の部屋に行った。


「珍しいこともあるもんだな。」


「ええ。

まさか滝澤さんのお宅が自ら試合に呼ぶなんて……。」

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