《MUMEI》
上手い話には甘い罠
「ふふっ。そっかぁ沢村君、おれの事そんな好きだったんだぁ。」
女が去ったあと竜崎が笑いながら言った。
「ふざけるな!男なんかに興味あるか!大体何だよその格好!?」
「女装だけど?似合うっしょ。ちょっとトキメいたんじゃない〜?」
そう言って悪戯な表情を見せる竜崎にギクリとした。まさか図星だなんて口が裂けても言えない。

「んなわけねぇだろ。」
俺はバレないよう、平然を装った。
「ちぇ。つまんね。」
「お前なぁ…まぁ今日は助かった。ありがと」
俺はそう言って帰るつもりだった。
「ちょい待ち!こんだけ人にデカい貸し作っといてタダで帰れると思ってんの?」
「な、何だよ。金はやらねぇぞ。」
ユスられてはマズいと思い先手を打った。
「やだなぁ、お金じゃないよ。たださお腹空いたなぁって。」
なるほど。奢れってか。

「チッ。で?何食いたいんだよ。」
「やった!おれ行きたい所あるんだよ。ここ連れてって。」
寺田はそう言って鞄の中から一枚のビラを取り出した。
「ケーキバイキング!?」その文字を見ただけで吐き気がした。昼飯にそれはないだろう!?しかも俺、甘いもの嫌いなのに。
「ケーキ嫌い?別のにしようか?」

う…。

俺と竜崎とはかなりの身長差だから仕方ないのだろうけど、目線を合わせるとどうしても竜崎は上目使いになる。俺はどうやらこの目に弱いらしい事を知った。「いや、一応礼だからな。お前が行きたいんなら別に変えなくていい。」
「優しいんだ。」

『優しい』か。心の中は荒んでるけどな。

「取り合えず、お前着替えて来いよ。」
「ここ見て。」
寺田が指した場所を見た。
『カップル半額!!』

「え?まさか…」
「うん、そのまさか。大丈夫、バレやしないから。」「そういう問題じゃ…」
「さぁレッツゴー!」

また人の意見無視かよ!もういいや。どうせ何ゆっても聞かないだろうし。

「沢村君!早く早く!」
そう言ってはしゃぐ竜崎にまたドキリとした。

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